目の錯覚とは、見たものが事実とは違うように見えてしまう現象のことです。同じ大きさの図形が違う大きさに見えたり、同じ色が違う色に見えたりする錯覚は有名ですから、皆さんもご存知でしょう。古くからいろいろな種類の錯覚が知られていますが、現在もたくさんの新しい種類が、発見されたり創作されたりしています。ここには、私たちが研究の中で新しく創作した錯覚作品を中心に展示してあります。まずはこれらの錯覚を体験し、その不思議さを楽しんでください。
錯覚を体験すると、目でものをみることの危うさを感じないわけにはいきません。私たちは本当にありのままを見ることができているのでしょうか。百聞は一見にしかずといいますが、一見したらわかったと安心していいのでしょうか。こんなことを反省したくなると思います。
「錯覚は目の病理的現象であり、錯覚を起こさないのが正常な目である」という理解は正しくありません。錯覚は誰にでも起こるもので、普段は生活の中で役に立っている目の機能が、ある場面で極端な形で表れたものに過ぎないということがわかりつつあります。ですから、錯覚を研究することは、目でものを見るという人の知覚機能を、正面から研究することでもあります。
私たちは、錯覚という現象を、数学を道具に用いて理解しようとしています。これは、新しい研究分野です。私たちはこれを「計算錯覚学」と名付けました。ここに展示した錯覚作品の多くは、この計算錯覚学の研究成果として生まれてきたものです。
錯覚の仕組みが数理的にわかると、どうしたら錯覚の起こりにくい環境を作ることができるかもわかってきます。これを利用して、環境を正しく認識できる環境整備の指針が得られ、事故防止などに役立てることができます。逆に、錯覚を強調することもできます。それを利用すると、見落としにくい標識の設計や新しい表現技術の開拓などに役立てることもできます。このような形で、数学が生活に役立っている姿も理解していただけると嬉しいです。
明治大学先端数理科学インスティテュート錯覚と数理の融合研究拠点
JST,CREST 「数学」領域、「計算錯覚学の構築」
杉原厚吉